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コラム - フォレンジックとは?

1 はじめに:デジタル・フォレンジックとは

デジタル・フォレンジックとは、パソコンやスマートフォンなどのデジタル端末に保存されたデータを収集・分析し、犯罪や不正行為などの調査に活用する技術・手法の総称です。元々は法執行機関の捜査手法として発展しましたが、近年では企業の内部不正調査やサイバー攻撃への対応手段としても広く利用されています。
フォレンジック調査では、証拠としての信頼性(証拠性)を担保するために、調査手順の厳密さと客観性が求められます。操作の過程では、データの改ざんや損失を防ぐために専門的なツールや技術が用いられ、証拠能力の維持に最大限の注意が払われます。
今日では、フォレンジックの対象は記憶媒体にとどまらず、クラウド、IoT機器、SNS、暗号通貨取引の記録など多岐にわたり、情報社会における真実を明らかにする重要な手段となっています。

2 歴史と語源

フォレンジックという言葉は、ラテン語の「forum(公共の場所、法廷)」に由来しており、「法的に利用できる科学的手法」を意味します。もともとは法医学などで用いられていた用語ですが、1990年代以降、コンピュータ犯罪の増加とともに「デジタル・フォレンジック」として新たな分野が確立されました。アメリカではFBIや軍によるコンピュータ証拠の解析から始まり、その後、民間分野でも活用が広がりました。
日本においては2000年代初頭から警察庁や情報通信研究機構(NICT)が主導し、捜査やセキュリティ分野での導入が進められました。現在では、教育機関でもフォレンジックに関する研究や人材育成が行われ、国際的な標準化も進められています。

3 対象デバイスと調査分類

デジタル・フォレンジックの調査対象となるデバイスは多岐にわたります。
パソコン、スマートフォン、USBメモリ、サーバ、ルータ、クラウドサービスなどが含まれます。それぞれのデバイスには異なるデータ構造や通信方式があるため、フォレンジック調査には高度な専門知識が求められます。調査分類としては、主に「コンピュータ・フォレンジック」「モバイル・フォレンジック」「ネットワーク・フォレンジック」「メモリ・フォレンジック」などがあり、目的や対象に応じて手法が選ばれます。
たとえば、社内不正が疑われる場合は、業務用PCやメールサーバの調査が行われ、サイバー攻撃時にはネットワークログの解析が重視されます。これらの分類に基づく適切なアプローチが、迅速かつ正確な真相究明を支える鍵となります。

4 主な活用目的

デジタル・フォレンジックの活用目的は、法執行機関による犯罪捜査だけにとどまりません。現代の企業活動や個人のインターネット利用においても、情報漏洩や不正アクセスなどのリスクが増加しており、これらに対処するための有効な手段としてフォレンジックが注目されています。
例えば、サイバー攻撃を受けた企業が被害状況を把握し、再発防止策を講じるためには、通信ログや操作履歴の解析が不可欠です。また、企業内部での不正行為(営業秘密の持ち出し、横領、ハラスメントなど)を調査する際にも、パソコンやスマホのデータを証拠として活用します。さらに、裁判における証拠保全や労務トラブルの調査、M&A時のリスク評価など、多くの場面でフォレンジック調査は重要な役割を果たします。
その信頼性と再現性の高さから、近年では法務・監査部門でも積極的に導入が進んでいます。

5 フォレンジックの重要性

私たちの生活や社会活動がデジタル化するにつれ、証拠の多くが電子データとして存在するようになりました。
メールのやり取り、ファイルの改ざん履歴、SNSの投稿履歴、ネットワーク通信の痕跡など、これらの情報は事件や不正の真相を明らかにする手がかりとなります。しかし、デジタルデータは容易に改ざん・消去が可能であるため、客観的かつ確実に証拠として扱うには、専門的な手法で収集・解析を行う必要があります。フォレンジックはまさにそのための技術であり、証拠能力を維持しながら真実を解明するための強力なツールです。
企業にとっては、万一のトラブルに備えて体制を整えておくことがリスクマネジメントの一環となり、フォレンジック対応ができること自体が組織の信頼性向上にもつながります。こうした背景から、あらゆる分野でその重要性は増しています。

6 フォレンジックの注目度が高まる理由

近年、デジタル・フォレンジックの注目度が急速に高まっている背景には、社会全体のデジタル化の進展とともに、情報漏洩リスクやサイバー脅威が急増していることが挙げられます。
リモートワークやクラウドサービスの普及により、企業の情報資産は社外にも分散するようになり、セキュリティ境界の管理が困難になっています。こうした状況下で、何らかの不正やインシデントが発生した場合、迅速かつ正確に原因を突き止める手段としてフォレンジック調査が不可欠となっているのです。
また、GDPR(EU域内の個人データ保護を規定する法)や日本の個人情報保護法など、情報の取り扱いに関する規制が強化される中で、企業は万一のトラブル時に適切な対応が取れたかを証明する必要があり、その裏付けとしてのフォレンジックの活用が重視されています。
さらに、ランサムウェアや標的型攻撃のように高度化・巧妙化するサイバー攻撃に対抗するには、事後対応としての調査力も組織のセキュリティレベルを左右する重要な要素となっています。

7 フォレンジックの種類

デジタル・フォレンジックは対象となるデバイスや環境に応じて分類され、それぞれ異なる技術と目的を持っています。
主な分類として「コンピュータ・フォレンジック」「モバイル・フォレンジック」「ネットワーク・フォレンジック」が挙げられます。これらの分類は、調査対象の特性に応じたアプローチを選定するうえで不可欠な概念であり、適切な手法とツールの選択が調査の成功を左右します。たとえば、コンピュータ内のログやファイル構造を分析する手法と、スマートフォン内の通話記録やアプリ利用履歴を調査する手法では、必要な知識や技術が大きく異なります。
この章では、これらのフォレンジックの種類ごとに、対象とするデバイスや解析方法、適用されるケースなどを詳しく見ていきます。

7.1 コンピュータ・フォレンジック

コンピュータ・フォレンジックは、デジタル・フォレンジックの中でも最も一般的な分野のひとつであり、パソコンやサーバなどの記憶媒体を対象に、保存されたファイルやログ、レジストリ情報などを分析します。
具体的には、削除されたファイルの復元、ハードディスクの完全コピー(イメージ)の取得、ブラウザの閲覧履歴、ファイルの作成・変更日時の検出などが含まれます。この分野では、証拠となる情報がデバイス内に比較的安定して残っているため、事後的な解析にも向いています。
企業では従業員の業務端末の不正利用調査、家庭では児童ポルノなどの違法ファイル捜査、官公庁では公文書改ざん事件の追跡など、多岐にわたる用途で活用されています。

7.2 モバイル・フォレンジック

モバイル・フォレンジックは、スマートフォンやタブレット端末などを対象に行う調査分野です。
現代では多くの人がスマホを主な情報端末として利用しており、その内部には通話記録、SMS、メール、SNS履歴、GPS情報、写真や動画、アプリの操作履歴など非常に多様なデータが蓄積されています。これらを解析することで、ユーザーの行動履歴や人間関係、通信内容などを明らかにすることが可能です。端末のOSに応じた専門的な手法や、ロック解除など、高度な技術が求められる分野でもあります。
企業の情報漏洩から家庭内トラブル、さらには刑事事件にまで活用される、近年最も注目される領域の一つです。

7.3  ネットワーク・フォレンジック

ネットワーク・フォレンジックは、インターネットやイントラネットなどのネットワーク上で発生する通信の記録を収集・解析する手法です。主な目的は、不正アクセスやマルウェア感染の経路を特定したり、通信内容の証拠を確保することにあります。
代表的な手法として、パケットキャプチャによる通信の記録、ネットワークログの分析、IDS/IPS(不正侵入検知システム)のアラート情報の精査などが挙げられます。これにより、攻撃者の侵入タイミングや行動範囲を可視化し、組織全体の被害把握と対応方針の決定に役立てることができます。
攻撃の兆候を検出し、インシデント対応と再発防止策を立てる上でもネットワーク・フォレンジックは欠かせない調査手段です。

8 調査の流れと主な手順

デジタル・フォレンジック調査は、証拠を正確に抽出し分析するための厳密な手順に基づいて実施されます。主に「収集」「保全」「解析」「報告」という4つのステップから構成され、それぞれの段階で高い専門性と慎重さが求められます。
たとえば、収集段階では証拠の改ざんを防ぎながら正確にデータを取得する必要があり、保全では取得したデータの信頼性を担保しなければなりません。また、解析段階では膨大な情報の中から事件や不正に関係する痕跡を抽出するための技術力が問われ、報告段階では結果を第三者にわかりやすく、かつ法的に通用する形でまとめる力が求められます。
これらのステップを適切に実施することで、調査の透明性と証拠能力を高めることができるのです。

8.1 収集

調査の最初のステップである「収集」では、対象となるデバイスやシステムからデジタルデータを漏れなく、かつ改ざんのないよう慎重に取得します。
たとえば、ハードディスク全体を複製する「ディスクイメージ」の作成や、ネットワーク通信のパケットキャプチャ、メモリ内容のダンプなどが代表的な手法です。収集対象はファイルデータだけでなく、システムログやユーザー操作履歴、一時ファイルなど多岐にわたります。証拠能力を維持するためには、取得時点のハッシュ値(MD5やSHA-256など)を記録し、以後の処理でデータが一切改変されていないことを保証する必要があります。
また、収集作業は状況に応じて静的(停止状態のデバイス)または動的(起動中のデバイス)に分かれ、それぞれに適した技術とツールが求められます。

8.2 保全

収集したデジタルデータは、その後の解析や裁判で証拠として使用できるよう、厳格な手続きで「保全」されます。保全とは、証拠データが収集以降まったく変更されていないことを保証する作業であり、信頼性確保の要です。保全にはいくつかの手法がありますが、最も重要なのはハッシュ値の照合です。データ収集時と解析前後で同一のハッシュ値が得られることで、データの完全性が担保されます。
また、データを扱う人物や時間、使用した機器やソフトウェアなどを詳細に記録した「チェーン・オブ・カストディ」も同様に重要です。これにより、どの段階で誰が証拠に関与したかを明確にし、証拠の真正性を保証します。証拠の保管も専用のメディアや保管庫を使用し、物理的な安全性にも配慮する必要があります。

8.3 解析・調査

「解析」では、収集・保全されたデータを詳細に調べ、事件や不正の証拠となる情報を抽出します。
このステップでは、ファイルの復元、ログの時系列分析、操作履歴の抽出、削除データの復元、通信履歴やチャット記録の検出など、さまざまな手法が用いられます。膨大なデータの中から有効な証拠を探し出すには、対象システムやOS、アプリケーションに関する深い理解が求められます。また、解析結果はタイムライン形式で整理されることが多く、関係者の行動や操作の流れを視覚的に把握しやすくします。フォレンジックツールの使用に加え、担当者の直感や経験も重要となる場面が多いため、継続的な技術研鑽が求められる分野です。

8.4 報告

フォレンジック調査の最後のステップが「報告」です。解析で得られた事実や証拠を、第三者にとって明確で理解しやすい形でまとめた報告書を作成します。報告書には、調査対象・調査期間・使用ツール・取得データ・解析結果・検出された不審点・考察・結論などが整理され、法的手続きや社内対応に活用されます。報告の正確性と信頼性は、証拠としての価値を大きく左右するため、記述の客観性や論理性が重視されます。
必要に応じて、報告書とともに証拠ファイルやハッシュ値一覧、調査ログなども添付されることがあります。さらに、法廷や社内会議などで報告内容を口頭で説明する機会もあり、調査担当者のプレゼンテーション能力も問われることがあります。

9 使用ツールと技術解説

デジタル・フォレンジックでは、データの収集、保全、解析、報告の各段階において専用のツールや技術が使用されます。代表的なツールには、ハードディスクのイメージ取得に使用される「FTK Imager」や「dd」、削除ファイルの復元やデータ解析に特化した「EnCase」や「Autopsy」、メモリダンプ解析に利用される「Volatility」などがあります。ネットワーク・フォレンジックでは「Wireshark」や「tcpdump」などのパケットキャプチャツールが定番です。
また、ログ管理にはSIEM(Security Information and Event Management)ツールやEDR(Endpoint Detection and Response)製品も用いられます。これらのツールは、データの整合性を保証するためにハッシュ値による検証機能や詳細な操作ログ出力機能を備えています。
近年ではAIを活用した解析支援ツールやクラウド上でのフォレンジック環境も整備されており、技術の進化とともに活用の幅が広がっています。

10 法的要件・証拠保全手続き

デジタル・フォレンジックの結果が法的手続きに用いられる場合、その証拠能力を担保するために厳密なルールに則った手続きが求められます。
まず重要なのが「証拠の改ざん防止」であり、収集されたデータには取得時のハッシュ値が記録され、その後の工程でも一貫して整合性が確認されます。さらに、誰が、いつ、どのように証拠にアクセス・操作したかを記録した「チェーン・オブ・カストディ」は、証拠の真正性を証明するうえで必須です。
日本国内では、個人情報保護法や不正アクセス禁止法、民事訴訟法などが関連し、調査実施の際には法令との整合性を考慮する必要があります。特に企業内での調査においては、従業員のプライバシーとのバランスを保ちつつ、適法な手続きで情報収集を行うことが求められます。法的観点からも、フォレンジック調査には高度な倫理観と専門知識が必要とされます。

11 フォレンジックが必要となるケース

フォレンジックは特別な事件だけでなく、私たちの身近な環境でも必要とされる場面が増えています。
例えば企業における情報漏洩や従業員の不正、社外からのサイバー攻撃への対応など、業種を問わず重要なリスク管理手段として活用されています。訴訟の証拠保全、労務問題の調査、M&Aに伴うリスク確認など、経営判断に影響を与えるシーンでもフォレンジックは有効です。
最近では学校や医療機関、自治体でも導入が進んでおり、公的サービスの透明性向上やトラブル対応力の強化にも貢献しています。デジタル化が進む現代社会では、トラブルや犯罪が表面化する前の段階で予兆を捉え、未然に対処するための調査力が求められています。フォレンジックはまさにその中核を担う手段として、今後さらに必要とされていくでしょう。

11.1 内部不正・情報漏洩の疑いがあるとき

従業員や関係者による情報の持ち出し、不正アクセス、横領などが疑われる場合、フォレンジックは決定的な証拠を提供する手段となります。業務端末やメール、ファイルの使用履歴などを調査することで、不正の有無や関与者を明らかにできます。

11.2 訴訟・紛争に備えた証拠保全

訴訟や取引トラブルが想定される場合、将来的に必要となる証拠をあらかじめデジタルデータとして保全することが求められます。正確な保全により、証拠能力を失わずに裁判で使用することが可能となります。

11.3 社内調査・監査における確認手段として

企業内部での監査やコンプライアンスチェックの一環として、フォレンジック手法を用いてシステム利用状況やファイル改ざんの有無を確認するケースもあります。早期の事実確認と再発防止に貢献します。

11.4 サイバー攻撃を受けたとき

企業や組織が標的型攻撃やマルウェア感染、DDoS攻撃などのサイバー攻撃を受けた場合、フォレンジック調査は原因究明と被害範囲の特定に不可欠です。通信ログやファイルアクセス記録などから、攻撃者の侵入経路やマルウェアの活動を明らかにし、再発防止策につなげることができます。

12 実際の活用事例

フォレンジックの実際の活用事例には、企業や公的機関、法執行機関によるさまざまなケースがあります。
たとえば、ある大手企業では営業機密の社外持ち出しが疑われた際、社員の業務用パソコンを調査し、USBメモリへの不正コピーの証拠を発見しました。また、職員による横領の疑いが持ち上がった企業では会計システムとメールログを照合することで不正の流れを特定しました。さらに、教育現場ではいじめやハラスメントの有無を確認するため、生徒間のSNSメッセージを調査対象とした事例もあります。
サイバー攻撃対応では、ネットワーク機器やサーバに残る通信履歴からマルウェアの感染経路や攻撃者のアクセス元を特定するなど、防御だけでなく復旧や予防にも効果を発揮しています。こうした事例は、フォレンジックが日常的な課題解決にも役立つことを示しています。

13 現代の課題と今後の展望

フォレンジックの重要性が増す一方で、その運用には多くの課題も存在します。
まず、技術の進化に伴い、調査対象も従来のPCやサーバにとどまらず、スマートフォン、クラウドサービス、IoTデバイス、さらにはブロックチェーンや暗号資産といった新たな分野にも広がっています。これにより、従来のツールや手法では対応が難しい場面も増えてきています。また、調査対象が国境を越えるケースでは、データ保管地の法令やプライバシー規制に配慮する必要があります。
こうした課題に対し、国際標準の整備や専門家の育成が進められています。
将来的にはAIや機械学習を活用した自動解析の導入、遠隔調査の高度化、クラウド環境でのリアルタイム分析などが進展すると見込まれています。フォレンジックは、単なる調査手法から「インシデント対応の要」として社会に不可欠な存在となっていくでしょう。

14 法令・倫理・ガイドライン

デジタル・フォレンジックの実施には、法令遵守と倫理的な配慮が不可欠です。
調査の対象には個人情報や通信履歴、業務上の秘密などが含まれるため、目的外利用や過剰な情報収集が行われれば、プライバシー侵害や企業の信用失墜につながる恐れがあります。そのため、調査には明確な目的と正当な権限が必要であり、実施前には社内規程や就業規則に基づく通知や同意の取得が求められます。
日本では個人情報保護法に関する法律などが関係し、企業や組織には法的責任が問われる場合もあります。倫理面でも必要最小限の情報にとどめる、結果の公平性を保つ、利害関係を回避するといった配慮が重要です。各業界団体や公的機関からはフォレンジック調査に関するガイドラインも発行されており、それらを参考にした適正な運用が推奨されています。

15 関連資格・団体・文献紹介など

フォレンジックの分野では、専門性を証明するための資格や、知見を深めるための研究団体、参考となる文献が多数存在します。
代表的な国際資格には「GIAC Certified Forensic Analyst(GCFA)」「EnCE(EnCase Certified Examiner)」などがあり、技術力の証明として高く評価されています。日本国内では、「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)」や「デジタル・フォレンジック・プロフェッショナル(CDFP)」といった資格が普及しています。
また、NPOデジタル・フォレンジック研究会やJNSA(日本ネットワークセキュリティ協会)などの団体は、研究発表やセミナーを通じて技術交流や教育を推進しています。文献としては、IPAのガイドライン、警察庁や総務省のレポート、専門書籍や学術論文などが実務や学習に役立ちます。これらの知識とネットワークを活用することで、継続的なスキル向上が図れます。